たとえばあなたが



「じゃ、私、準備してくるね」

萌が、足早にキッチンへ向かった。

「あ、うん」

千晶が首をかしげながらリビングに入ると、崇文がバツの悪そうな顔をして待っていた。



「…何よ、その顔…」

「いや、悪かったなって思ってさ…この間のこと…」

千晶はドキリとした。

具体的に言ってはいないとはいえ、万が一萌に聞こえてしまったら、どうするつもりなのか。



「やめてよ、こんなところで。それに、許してあげるってメールしたでしょ」

崇文は鼻を掻いて、もう一度小さく、ごめん、と言った。



こういう空気は苦手だ。

もちろん、得意な人もいないとは思うけれど…―



千晶は手荷物を置いて、キッチンで鍋の用意をしている萌を手伝いに行った。




< 290 / 446 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop