たとえばあなたが



細い路地の壁にもたれてしゃがみこんだ松田は、大きなため息をついて空を仰いだ。

あれだけ激しかった雨は、松田が崇文に過去を話しているうちに上がった。

けれどまだ空は厚い雲に覆われていて、路地に吹き込む風を一層冷たくしていた。



崇文は、松田の傍らにじっと立ちすくんでいた。

ただ黙って地面を見つめたまま、何か言おうと思っても言葉が出てこない。

俯いた顔から落ちる水滴が、雨の雫なのか涙なのか、自分でもわからなかった。



同情の余地はないと思う。

ほんの一時の激情で千晶の家族、そして何の罪もない小山徹を殺したのだから。



さらに言うなら、それだけではないだろう。

崇文は、ずっと胸につかえていた疑問を口にした。

「『秋桜』のおばさんも、やったのか…」




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