たとえばあなたが



聞かなくても答えはわかっていた。

でも聞かずにはいられなかった。

そして返ってきた答えは、やはり崇文の予想通りのものだった。



「あの店には、事件前の若い頃、木村部長に2回ばかり連れて行ってもらったことがある」

「それだけのことで…?」

「まさか。俺だってそこまで馬鹿じゃない」

松田は顔色ひとつ変えずに言った。



「俺の外見は、整形こそしていなくてもあの頃とはだいぶ変わっていた。年月も経っているし、おかみさんも覚えちゃいないだろうと思ってんだ。でも…―」

どこからか雨の雫が、松田の額にポツリと落ちた。

「客商売ってのは恐ろしいね。20年も前に2回行っただけなのに、千晶に連れられて入ったとき、すぐに気づかれたよ」



崇文は息を呑んだ。

淡々と話す松田の口ぶりは、丁寧な物腰が印象的だった今までとはまるで別人で、恐怖すら感じた。



「ある日、おかみさんが会社まで来たんだ。それで俺に自首しろって言ってきた」

松田は薄く笑みを浮かべていた。

「するわけないだろ?もう時効になって5年も経つってのにさ。だけどあの人、引かなくてさ」




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