たとえばあなたが



「…できない…やめて…!」

なおも泣きじゃくる千晶に、松田は冷たく言い放った。

「俺を撃ってくれないと、キミだけじゃなくて俺の計画まで台無しになるんだ」

千晶は、松田の言わんとしていることがわからず、怯えた目を松田に向けた。



「キミはその手で俺を殺さなきゃならない。そして、その記憶を抱えたまま生きるんだ。俺がしたように」

松田の目は、悪巧みを思い付いた子供のように、どことなく喜びの色を帯びていた。

「必死の思いで警察から逃げながら、何もかもを捨てて生きるんだ」

それはまるで、千晶を励ましているような口調だった。

「それでこそ、俺の積年の思いが果たされる」



愛する人が仇であるという事実。

そして、その仇を自らの手で葬ったという事実。



「キミが、そのあまりにも重い記憶を抱えて泣きながら生きてこそ、あの一連の事件が完結するんだ」




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