たとえばあなたが



松田の手が、千晶の頬にやさしく触れた。

「キミは、簡単に死んだりしちゃいけない」

千晶の涙が松田の手を伝い、温度をなくして床に落ちる。

「苦しんで苦しんで、もがきながら限界まで泣き叫んで、暗い谷底まで自分を追い込んで、ゆっくり歳を取っていくんだ」

そう言って松田は、クツクツと笑った。



「思い知ったか、自分の浅はかさを。お前が愛したのは、最愛の家族を殺した男なんだよ、千晶」



愛した顔が、意地悪に歪んでいる。

自分を撃てと言っている。

(…私に、もがき苦しめと…)



信じられない、信じたくない。

こんなことを考えながら、今まで一緒に過ごして来たなんて。

これまでの人生でどんなときよりも幸せだったあの日々が、すべて偽りだったなんて信じたくない。



―…ねえ、それがあなたの本心なの?

そう聞きたくても、声が出なかった。



「殺せ!そのナイフで俺を刺せ!その銃で俺を撃て!」




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