たとえばあなたが



「お前って、誰ですかぁ?」

妙に間延びした声の女性が、後ろから崇文の携帯を覗き込んでいる。

崇文は反射的に携帯を閉じて、笑顔を作った。



「いや、誰ってわけでも。あ、それよりも僕に何か御用ですか?」



崇文は、このデパートの催事場担当の社員だ。

勤務15年、今では催事場の責任者として日々奮闘している。

それは上司も認めるなかなかの采配ぶりで、従業員からの評判も良かった。



現在、大催事場では大人気の北海道物産展が開催中だ。

ついさっき様子を覗いてみたものの、催事場は客も店員も入り乱れ、とても悠長に構えてなどいられない状況だった。

ちょっと名前の知れているスイーツ店や、蟹といくらの弁当屋は大行列。

有り余るパワーをここぞとばかりに発揮する客たちの間を、崇文は掻き分け歩いた。

商品をさばく社員に崇文に気づく者はなく、皆必死の形相だった。



ところが、一角だけ人が少ないスペースがある。

崇文がそちらに目を向けると、そこは今ブームになっている生キャラメルの店だった。





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