*エトセトラ*
「モカちゃんって、まさか黒崎の彼女!?」

「マジっ!?何でここに!?」

「おい黒崎!紹介しろ!」


興奮気味に詰め寄る声に、モカの身体がビクリと縮こまるのが分かった。

身を乗り出してくる男達にビビっている。そんな様子を見ると、やはりまだ紹介したくないと思ってしまう。

モカも初対面の奴らに対して、器用に対応できる性格じゃない。しかも、こんな獰猛な奴らなら、なおさら。


モカを男達の好奇の目から避けるように背に隠すと、「おい黒崎!もったいぶるな!」とまた非難の声が上がった。


「モカ、帰ろう」

「え、で、でも…」

「大丈夫。放っておけばいい」

「ええっ…」

戸惑うモカを引き連れてその場を離れようとすると、「おい!帰るな!」「無視すんじゃねえ!」と部員たちがまた騒ぎ出す。

「じゃ、先帰るわ」

「おい!マジで帰んのかよ!」

「ああ、じゃあな」

そう言って、手をヒラヒラと振りながら再びモカを引き寄せた。


「和泉君…、いいの…?」


チラチラとうしろを振り返るモカに「いいから、いいから」と返し、その手を引きながら店の外に出た。

後ろではまだ、引き止める声やはやし立てる声が騒がしく聞こえていたが。

しかし、あいつらのことなんて、もはやどうでもいい。今はこうしてモカがこの手にあることで、頭がいっぱいだ。


高揚した気分のまま隣を見下ろせば、少しだけ照れたような笑みが返ってくる。


星が輝く夜の帰り道、モカの手を握り締め、その頬にキスを一つ落とした。








「………ところで、モカ?」

「うん?何?」

「誰かに声かけられた?」

ヒクッ、とモカの頬が引きつった。


…………かけられてるな。


「可愛い子がいてさー」と言っていたあの男、おそらくアイツが声をかけたに違いない。

いや、もしかしたら、複数いるかもしれない。


「で、何て言われた?」


これからじっくり責めることになるであろう俺の様子に、モカはさらにビクビクと怯え始めた。

こういう所が、きっと面倒くさい彼氏なのだろう。



長い帰り道になりそうだ。







★おわり★


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