*エトセトラ*
「相変わらずきっつい奴」

突然そんな声が響き渡り、後ろを振り返った。

「泰造…」

あくびをしながら、体を起こして立ち上がっている。

そういえば、視聴覚室は泰造がサボるお決まりの場所だったなと、ここで思い出す。


「聞いてたのか?」

「ああ、全部」

「……菜都に言うなよ」

「さあね、それはどうだろう」

ふざけた調子で言う泰造にひと睨み返すと、「はいはい、分かってるって」と信用ならない返事が返ってきた。


「それにしても玲人も大変だな」

「蒸し返すな」

「いやいや、あんな面白い場面見せられて蒸し返さないわけがないだろ」

「お前な…」


溜息を零す俺に、泰造は続けて喋る。


「それにしても、お前なっちゃんのこと相当溺愛してんな」

「…………」

「ここになっちゃん連れて来ようと何度思ったか」

「…………」


このままだと、こいつはいつまでもからかい続ける。

そう判断した俺は、泰造を無視することに決め、さっさとこの視聴覚室から出ることにした。


「おい玲人!どこ行くんだよ」

「もう戻る」

「戻るってどうせなっちゃんのとこだろ」


……図星なので何も言い返さない。

ごちゃごちゃうるさい泰造を置いて、視聴覚室を出た。



サエコと、ついでに泰造で疲れきった俺の心を早く癒したい。

一刻も早く菜都に会いたい。

そう思って足を進める俺は、このときすっかり忘れていた。


菜都が災難に巻き込まれやすい体質だってことを。

< 201 / 210 >

この作品をシェア

pagetop