さぁ、跪いて快楽を乞え!
昔は綺麗だったという今は黒ずんだ柱と、錆び付いた門の近くに停まる一台のベンツ。そのベンツの側にはスーツを着た橘が立っている。

「あ、橘さんだぁー!」

「橘さんだぁー!」

橘の姿を確認してきゃっきゃと騒ぎだすのはハルとアキ。

「あ、こんばんは」

「こんばんは、皆さん」

「……もう来やがってたか」

「何ですか、その言い方は。貴方なんぞのために仕事を済ませてからここまで迎えに来る私の身にもなってごらんなさい」

橘は一応、薫の父親の会社に勤めている。が、その殆どは家でパソコンに向かう仕事ばかりだ。いつ終わらせようが始めようが何も言われない。

「なら来なければ良いだろう」

「そう言うのであれば、これからは一人で歩いて帰られますか? 私は早く家に着きますし、貴方がわざわざ車に乗る必要もありません。面倒なことが一つ減るというのは、何よりも有難いことです」
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