さぁ、跪いて快楽を乞え!
「お前はもう少し主人に優しくしようとは思わないのか?」

帰りの車中、車に押し込められた薫が橘に反論の意を示そうとする。車に乗る度に身体を痛めるのは不満なのだ。

「私の辞書にそのような言葉は存在致しません」

「……嘘は吐くな」

「何を仰いますか。私の辞書に優しさという言葉が存在しないのは事実です」

「……お前な……」

もう少し、いやもっと俺に優しくしろ。と橘に言おうとしたがやめた。言ってる自分を想像したら、それはもう吐きそうなほど気持ち悪かった。それに、絶対に橘が怪訝な顔をしてこちらを見るだろう。
第一、怪訝な顔をされるのは苛つくし、主人たる者は「お願い」ではなく、「命令」をする者だ。
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