さぁ、跪いて快楽を乞え!
菖蒲が言いたい事を思い出すのに、そんなに時間は要さなかった。

「……今日どうやって帰るつもりなの?」

「帰り……」

「まさか、とは思うけど、歩いて帰ろうなんて……」

「……思ってるわけがないだろ」

「だよね?」

と言いつつも薫は菖蒲から視線を反らす。薫はいつも車で来る道順を歩いて帰ろう、と思っていたのだ。

そんな薫を見てか、菖蒲は溜め息を一つ吐いた。

「……金、持ってんの?」

「……ランチ代しか貰ってない」

「どうやって帰るつもり?」

聞かれて、薫は黙り込む。お金を持っていない、という事は、タクシーはおろか電車さえ乗れやしないのだから。
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