SAYONARA
 彼の体にあたしのものでも由紀子のものでもない影が重なる。

 その影の主を目で追うと、そこには髪の毛を後方で結んだ女性の姿があった。

 女性の手にはケーキが握られている。

 幼馴染だと言い放った彼はその彼女の鋭い視線を受け、体をのけぞらせた。

 その空いたスペースから女性が割り込むように入ってきて、ケーキの載った食器を並べる。

「ごゆっくり」

 頭を下げると、店の奥に入っていった。

「あの人は俺の姉なんだ」

 彼は彼女の後姿を見送ると、真っ先にそう告げた。さっきの親しげな態度はそのためだったのだろう。
< 41 / 101 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop