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そんな話をしているうちに、店内にも少しずつ客が増えてきた。

「じゃ、そろそろ帰るわ」
そういうと瀬戸は椅子から立ち上がった。
瀬戸はたいてい開店する少し前に来て、客が増えてくる頃には帰る。

「あぁ、またな」
俺の返事にヒラヒラと手を振りながら店を出ていく。

それと入れ違いに女が一人、ゆっくりとドアを開けて入ってきた。

「いらっしゃいませ」

歳は24、5といったところか。

うちの店は日頃から女の客が少ない。
いても大概連れがいる。
ましてこんな若い女だ。
更に言うと、女は喪服姿だった。
これでもか、という位うちの店らしくない客だ。
常連客のオヤジどもの視線を集めるのも当然だろう。

彼女はどこを見ているのかわからない、フワフワした感じで、さっきまで瀬戸が座っていた椅子に腰を下ろした。

「いらっしゃいませ」
女はゆっくりとこちらに顔を向けたがイマイチ視線が合わない。

(家族を亡くしたって感じじゃないな。。)

「何にいたしましょう」
ようやく女と目が合った。
キレイな顔立ちをしている。
正直かなり好みな顔だ。

女は辺りを少し見回す。

(適当になにか作るか)
初めて来る客には、たまにウェルカムドリンクでカクテルを作ることがある。
主にまた来てもらう為に出すのだが、時には気に入った女性客を落とす為にも使う。

俺はシェイカーを手にとり、軽く振ったあと、彼女の前に置いたグラスに注いでいった。

「今日ココに立ち寄っていただいたお礼です。」我ながらクサイ台詞だがこれも営業トークみたいなもんだ。

女は、ゆっくりとグラスをとり一口飲むと、また、一点を見つめ、別の世界にいってしまった。


−それから2時間ほどが経ち、女は突然ゆっくりと立ち上がった。

その時俺はなぜだかまた会いたいと思っていた。
確かに好みな顔だが、下心とかではなく、なんとなくもう少し知りたい、話してみたい、と思った。

「また、いつでもお待ちしております」
こんな営業トークしか出てこなかったが、その言葉に女は微かに微笑んだ。


−それが酒井 凜との出会いだった。
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