男子と女子
寅吉
幼馴染の寅吉は乱暴もので
いつもわたしの物を壊した

昨日は携帯、1か月前は鏡、半年前は1円玉貯金箱

勝手に部屋に入ってきては
勝手に荒らして
勝手に使って
勝手にボロボロにして

最後は何も言わずサッサと部屋を出て行く
とんでもない男である



「オッス」


いつものように寅吉が部屋に
ズカズカと入ってくる

わたしは背を向けたまま本を読み続けた


「この漫画まだ途中なんだ、借りるな」


そう言って寅吉はベッドに寝転ぶと
そのまま無言になった

こいつは本当にただ漫画を読みにきただけなのだ
しかも少女漫画 こいつに合わない

まぁ、いつものことなので
わたしは寅吉を無視してまた本の世界に入った


しかしモヤモヤする
仮にもレディの部屋に入ってきて
しかもふたりきりなのに
お互い何も話さないで本読んでるだけって
今どきの高校生とは違うくないですか?

寅吉はわたしのことなんとも思ってないんだろうな…

そう思うと少し寂しくなった


「わたしはずっと好きなのに…」


小声だが思わずそう呟いてしまった
ハッとして慌てて本を読むフリをしたが
寅吉には聞こえてしまっていたようだ


「あ?何が好きだって?」

寅吉が体を起こしながら言う


「別に」
「なんだよ、気になるじゃん!」
「なんでもないってば!」


ムキになって声を張り上げると
寅吉は はぁ とため息をついた


「…壊したい」
「は?」


少しイラついた感じで寅吉が呟いた


「お前といると物を壊したくなる」

なに言ってるんだこいつは…
わたしはキョトンとしたまま寅吉をみつめた
俯きかげんだった寅吉も顔をあげわたしをみた


「お前といると心臓がバクバクなって苦しくなるだから物にあたっちまう、これ病気か?」

寅吉は頭を荒っぽく掻きむしった

「お前自身も壊したくなる」


そう言って寅吉はわたしにキスをした

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