王国ファンタジア【氷炎の民】ドラゴン討伐編
 サハナを安心させるためか優しげな微笑とともにかの青年は簡潔に自己紹介をする。

「私は<氷炎の民>、サレンスだ。これは雪狼のセツキ」

 と、足元の獣を指差す。

「うおん」

 雪銀の獣は先刻までの緊張をかけらも見せず、子狼のように吠えた。
 それにくすりと笑みをもらし、彼女も己の名を明かす。

「わたしはサハナ。<森の民>です」
「君も招集されて?」
「いえ、わたしは付き添いです。というかお目付け役ですけど」
「お目付け役?」
「はい、アウルはわたしの幼馴染で、森の民一の剣の使い手ですけど、世間知らずだし。きれいなお姉さんについていかないよう見張っていないと」

 サハナの愚痴めいた言葉に青年は苦笑する。

「それは耳が痛いな」
「は?」
「いや。だが、アウル君は幸せものだな。こんな可愛い子に心配されて」
「可愛いだなんて、サレンスさんの方が綺麗です」

 サハナの言葉にサレンスは凍青の瞳を見開いた。

「私が?」
「特にその髪、長くてすごく綺麗ですね」

 そこでサハナは銀色の綺麗な髪に添えられた金色の光に気がつく。

「それ、どなたかの贈り物なんですか。よく似合ってますよ」

 サハナがサレンスの髪に止められた金細工の髪飾りを指差してそう言ったとたん、彼は不意に焦ったようにあたりを見回した。
 はっきり言って挙動不審である。

「どうかしました?」
「いや、今日はこれのせいで酷い目にあってね。昼に雷電の民のお嬢さんにもらったと言うか、売りつけられたんだ。よく似合っているとご婦人方に好評なのはよかったんだが、言われるたびにどこからか彼女、湧いて出て商売を始めるんだ。どうやら私は商品見本だったらしい。あれはさすがに参った」

 げんなりと言った様子で彼はため息を漏らす。

「よかったら、君がもらってくれないか。護符でもあるらしいし、もともと君のような女の子が着けるものだろう」
「とんでもない」

 サハナはぶんぶんと首を横に振る。

「そんな高価なものもらえません。わたしには似合わないですし、サレンスさんの方が絶対よくお似合いです」


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