王国ファンタジア【氷炎の民】ドラゴン討伐編
 茂みの中から現れでたのは、大きな影。
 ゆっくりと堂々とした足取りで歩み出た獣は、月の光の中で白銀の輝きを放つ。

(狼? でも、大きい)

 彼女の知る森の狼よりも一回りは大きく見えた。
 少女を伺うようにぴたりと向けられた瞳は、闇に緑に光る。
 獲物を前にしたかのようにゆるがない眼差し。

(襲われる)

 下手に動くと襲われる、本能的に悟った彼女は微動だにせず、ただ互いににらみ合いをする。
 息をすることすら憚れる一瞬を破ったのは、若い男性の声だった。

「セツキ、どこだ」

 獣を追うように茂みの奥から人影が現れる。
 長い銀の髪が月光を弾く。
 まだ若い、そして美しい青年。
 その彼に野生の獰猛さを秘めた白銀の獣は、やすやすと従う。
 月光の下、輝く銀の髪の青年と、彼の足元に寄り添うように立つ白銀の獣。
 それは、神話を描いた一幅の絵のようだった。
 凍てつく冬の空を思わせるような蒼い双眸が少女に向けられる。

「すまない。怖がらせたみたいだね」

 優しげな声に少女は肩の力を抜く。生身の人間の温かみを感じさせる声だ。決してこの世ならぬ神話の中の人物などではない。
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