境界上
.


“男のポーカーフェイスを崩してやりたい”


……なんて。

そんな感情に駆られたのはいつ以来だろう?


思ってもみなかった久々ド真ん中の“上等”文句に。

口惜しくも思わず脈拍が乱れてしまった。


こんな“ハズせない”場面で、しれっと更にハードルを上げてくれちゃって。

この男、一体どれだけの場数を踏んできたのかしら?


(むしろ“満足させられない”というワード自体、自分の辞書には載って無いって口振りだったわよ。)


しかも、それが不遜に感じない。


――これは一層、その挑発的な瞳の奥の揺れ様が見物だわ。



「……結構な自信家ね」

「否定はしないよ」


ふっと笑いながら。

彼の長い指が丁寧にあたしの髪をすくい上げる。


その、指使いが。

真っ直ぐ見据えてくる、その茶色がかった瞳が。


これまたひどく扇情的で――。


彼のペースに“ノセられてます感”が少し癪ではあったけれど。


「……ねぇ、宮坂くん」



“執着心”は一気に佳境まで駆け上がる。



< 17 / 46 >

この作品をシェア

pagetop