その唇、林檎味-デキアイコウハイ。
 不平不満を隠そうとしない私の表情にも一切動じず、先程の要求を再度私に突きつける。


「で、ほらメアド」


 早く、と急かす彼に、私の容量はそろそろ限界。徐々に溢れ出す“何か”を制御することも難しくなってきて、じわじわと声に滲んでいく。


「いちいち何なの……っ?何でこう突っかかって…」


 そもそも私は既に、学校とバイトだけで精一杯なのだ。処理能力の限界まで既に自身を酷使しているというのに、何故敢えて、私なのか。

 それを直接尋ねる勇気は私にはなくて、一歩手前で留まった問い掛けを、半ば八つ当たりでしてみれば、事態をより拗らせるだけの返事があった。


「何でって…一目惚れ?」


 廊下に集っていた女子から上がった悲鳴。教室に関しては、フリーズしていた空気が徐々に溶け出しボルテージが上がっていく。

 周囲の喧騒、自分のキャパの限界により一気にごちゃごちゃになった私の記憶は、暫し途絶えることとなった。


 一目惚れだなんて、冗談じゃない。


 目が、頭が、全てが狂ってる―――――。

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