その唇、林檎味-デキアイコウハイ。
 そうやって他愛ない話をしながら歩いていれば学校に着いて、いつもより数倍眠い朝補習。昨日までで既に相当疲れてしまったらしい。今日のバイトを耐え抜けるか、不安が過った。

 迫りくる限界に、まだ十七歳だというのに年齢を感じた。もしかしたら肉体年齢はとうに老いているのかもしれない。


「凛呼凛呼っ!」


 左斜め後ろの席、小声で私に声を掛けるのは未沙。ふわふわと空中を漂う意識を、捕まえる意思は私にはとうにない。

 本当なら寝たら相当まずい古典の授業なのだけど、正直もう頭が落ちそうなくらい。


「…ん?」


 頭だけで軽く振り返って見れば、両手を顔の前で合わせた未沙の姿が目に映る。さて何の頼み事か。


「あたしここの問題当たるんだけど、分かんなくて。悪いんだけど見せて?」

「……はいはい」


 もうだめだ、冗談抜きに首が落ちる。そう確信した時。私の筆箱が机から落下した。中身まで遠慮なしに溢れ出し、大きな音にクラス全員の視線が此方へ向かう。ぐっと息を呑み、慌てて意識を叩き上げた。

 元々眠らないようにと必死だったのだから、本来なら好都合とさえ思える筈なのに。どこか私は、自分に甘かったということか。

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