イケメン倶楽部
「“ギャッ”って…色気ねぇ奴。」
色気とか
そんなこと気にしてられない。
先輩が抱きついてきているのは、廊下のど真ん中。
もちろん通行の邪魔。
それに、歩いている人皆に見られる。
「先輩…!離してください!」
「無理。」
無理って言われても…
こっちが困るんです!
そんなあたしの気持ちとは裏腹に、先輩の行動はヒートアップしていく。
先輩の吐息が顔にかかる。
ずるい…
この状況になると、あたしが何も出来なくなるのを知ってるんだ。
思考がストップして、先輩に答えてしまう。
先輩ばっかり余裕で…
あたしから求めてしまう。
「…先、輩……」
「もう少し…」
先輩の指があたしの髪をかきあげた。
ふと目を開けた時に見えたのは、
余裕のない先輩の表情。
いつも余裕ぶっている先輩が、あたしを求めて必死になってくれている。
そう思うだけで嬉しかった。
「葵……」
この時はこの後何があるかなんて知らなかった。
わかっていなかった。
それでも確実にあたし達の背後には黒い影が忍び寄っていた。