忘れはしない
「お姉ちゃん、運がなかったんです。」

「運?」

そういえば、俺はあの事故のことを詳しく知らない。
なぜ事故が起きたのか、優希の他に犠牲者がいるのか、俺は何も知らなかった。
いや、知ろうとしなかっただけか。

「事故のこと教えてくれないか?」

はい、と短く答える早紀ちゃんの声は心なしか少し震えているように感じた。


「…お姉ちゃん、窓際の席に座ってたんですよね?」

「ああ」

私は絶対窓際に座るんだからね。

そう言った、優希の笑顔が脳裏に浮かぶ。

「京介さん達が乗ってたバス、カーブを曲がりきれずに、崖から転落したらしいんですけど、高さがそんなに無かったのと、木とかがクッションになったのもあってお姉ちゃん以外は打撲、悪くて骨折ですんでるそうなんです……」

「……え?」

じゃあ、なんだ?あの事故で死んじまったのは優希だけってことなのか?

医者は奇跡的に助かった、なんて言っていたような気がする。

じゃあ、なんだ?みんな奇跡的に助かって優希だけが助からなかったっていうのか?


なんで、優希だけ…。

俺の考えていることがわかったのか、早紀ちゃんが答えを教えてくれた。

「落ちた衝撃で、割れたガラスが、の、のどに…喉に…」
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