忘れはしない
俺は、静かに聞いていた。

ちゃんと、彼女の話を聞かなければならないと思ったから。

「泣いて、泣いて、泣き疲れて、もうダメだって思ったとき、思い出したんです。昔、お姉ちゃんに言われた事を」

「優希に、言われた事?」

「はい」

『泣きたいときは、思いっきり泣いたらいい。子供みたいに、泣きじゃくって喚いてもいい。でも、泣き終わったら、今度は逆に笑ってみなさい。作り笑いでも何でもいい、とにかく笑顔になるの。思いっきりね。それで、そのまま鏡を覗いてごらん。きっと、楽しい気分になれるはずよ』

「……鏡?笑顔の自分を見たらつられて笑顔になれる、とか?」

早紀ちゃんは、ゆっくり首を振った。

「私も、初めはそう思ってました。でも、違ったんです。言われた通り思いっきり、笑顔を作って鏡を見てみたんです。そしたら」

そこで、一旦言葉をきる。と思ったら顔伏せ、肩を震わせ出した。

…もしかして泣いてる?

「ど、どうしたの!?」

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