そのオトコ、要注意。


どこかから、ぷ……っ、と吹き出すのが聞こえた。

どうやら頭上からのようで、閉じていた瞼をゆるゆると上げると。


「っ、にゅっ……!」

いきなりあたしの口はタコチューになった…!
じゃなくて。両の頬を手で挟まれ、敢え無くこんな残念な形に…。

「なっ、なにすんのよぉ…っ」

仕出かした当の本人は、…案の定笑っていた。
笑いを堪えるも耐え兼ねたように、その美しい面を破顔させて。


それにはあたしも怒りを忘れて、一瞬固まってしまった。


「……このほうがお前らしい」


ふ、と微笑む目の前の彼は満足したのか、手を離し、扉に足を向けた。

それを呆然と見つめていたら、戸に手をかけた彼が振り返る。
…意地悪い笑みを浮かべて。


「……あのまま、キスして欲しかったか」

え、と飲み込むのに数秒かかった。


「っ!ば、ばかぁ!!」

一気に火が点いたかのように体温が上がった気がした。
顔がひどく熱い。


クスクスと嫌な笑みを残し、先に戻ってるぞ、とさっさと行ってしまった。


(…なにこれ)

何がなんだか、もうわからなかった。



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