つれづれなるままに奈落
第一章 夕陽ヶ丘西特別老人ホーム
 
 夕陽ヶ丘西特別老人ホームの綺羅星・

 春田万蔵が死んだ。

 昨朝、私が着せ替えに行くとベットで

 静かに息を引取っていた。  

 九十八歳。ホームの主治医は前立腺癌

 の悪化によるものと死因を断定した。

 孫、ひ孫が集まり、

 「惜しかったな、あと二年…」

 と嘆いていましたが、

 「いい加減、もういいだろう」

 と、わたしは無意識のうちに呟いてい

 ました。

 女の私が言うのもなんですが、万蔵じ

 いさんのすごいところは死の前日まで、

 勃起を繰り替えしていたことでした。

  空になった万蔵爺さんのベッドのシ

 ーツをはがしに行くと、隣室の黒田マ

 ツ・八十七歳が故万蔵さんの部屋に入

 っていて、私の顔を見ると、車椅子を

 回して、すっと逃げていきました。

 その時、私は異様に感じましたが、忙

 しい介護の仕事ですから構うわけにも

 いかず、そのまま仕事をつづけました。

 この夕陽ヶ丘西特別老人ホームの本体

 は建設業です。しかし、昨今の建築不

 況を諸に受け毎年、赤字経営をつづけ

 ておりました。

 ところが、町長である万蔵さんの長男

 の後押しを得て、コンクリートから人

 への転進を見事なし遂げることができ

 たのです。

 しかし、相変わらず、本体が不振のた

 め、夕陽ヶ丘西特別老人ホームにもし

 わ寄せがきているようで、

 それは、私たち介護士の給料をみれば、

 一目瞭然、介護士が定着せず、入れ替

 わりが烈しいことで証明済みなのです。




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