120円の恋心
 

***


 ジャージ3人組が行ってしまうと、荻窪はひとりで大浴場へ入った。

温泉の向こう側はガラス張りで、外が丸見えだ。

だが当然その場所へ立ち入ることは出来ないので、覗くのは簡単なことではない。


 3人は覗きに成功しているのだろうか、と考えると胸がざわついた。

寂しさからではない。

荻窪が密かに想いを寄せる北村麗華も、風呂に入っているかもしれないからだ。

そう考えると、気が気ではなかった。デジタルカメラを持っている人もいた。

もし撮影などされたら――。


 風呂から上がり、着替えて更衣室を出ると、浴衣に着替えた女子の集団が隣の更衣室から出てきた。

そのなかには、麗華もいた。麗華は荻窪が所属するテニス部のマネージャーだ。

普段、制服姿やジャージ姿は見慣れているのだが、浴衣姿は新鮮だった。

元々の美貌が、さらに際立っているように感じられた。
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