『Memory's Messiah外伝〜前を向いて歩こう〜』
第2章『少年時代』

第1節『見知らぬ顔』

―24年前―


10月25日


辺りは薄暗く、雨が降る夜に、生まれてまだ間もない頃の俺を抱えた“誰か”の姿。


そしてその“誰か”は古びたアパートの表階段の下に幼い俺を置いて走り去り、姿を消した。


ザーッザーー


『ウッギャァーウッギャァー』

パシャ…パシャ…


『済まない……』


ザーッザーー


パシャ…パシャ…


『ウッギャァーギャァーウーギャー』



ビシャシャビシャーダッダダダ…



―数時間後―


一人の男が俺の事を見付けてくれた。


『ん?』


『ガキか…』


『まぁ…俺の知ったこっちゃ無ぇな…』


その男は“優しい人”とは程遠く、その生後間もない頃の俺を見ても、見て見ぬ振りをして、古びたアパートの表階段を上がって行った。


―10分後―



しかし…


その“優しい人”とは無縁な筈の男は、自分の家からバスタオルを持ちながら、再び、俺の前に姿を現した。


『クッソ…何処の野郎だ人ん家の前にこんなガキを置いて行った阿保は…』

『邪魔臭ぇ…』


男はそう言いながら、俺を抱き抱え、俺の生死を確かめるかの様に俺の顔に触れた。


『クッソ…まだ“生きてる”じゃ無ぇか…』


『死んでたら…“サツ”にでも知らせて、追っ払えたのによぅ。』


『ウッギャーァギャーァ』

『ウッセェなぁ…』


『んだけうるせぇと、寝れねぇだろうが』


男はそう言いながらも、表情は安心した顔に変化していた。


『………』


男はその後、無言で俺の頭を撫で、俺の、小さく、冷え切った手足を摩りながら、俺を抱えたままアパートの階段を上がり、自分の家へと帰って行った。
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