春。[短編10P][ホラー]
 ふと目が覚めた。

 どうやらキッチンのテーブルでうたた寝をしていたらしい。春とはいえまだ少し肌寒い。

 視線を感じて後ろを振り向くと、リビングのソファーに少女が座ってこちらを見ている。ふわりとした髪、くるりとした瞳。春らしいピンクのワンピースを着ている。お人形さんのようだ。…いや、そういう問題ではない。私は眉間に皺を寄せる。



「……誰?」



 寝起きのせいで声が出にくい。

 少女はゆっくり立ち上がり、こちらに歩いてくる。瞬きもせず、私を見続けている。



「ママ……」



 少女が切ない声を上げる。まだあどけない高い声、10歳くらいだろうか。

「ママ?」

 誰が? 誰かいるだろうかと、キョロキョロと辺りを見回すが他に人はいない。大体ここは私と利典(としのり)、二人の家だ。


「あ……あなたどこの子? お母さんやお父さんは? どこから入ってきたの?」


 相手は子どもなので口調は優しくしてみるが、焦りは消せない。緊張で喉が渇く。



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