春。[短編10P][ホラー]
「ママ。また混乱してるのね」

 少女は音もなく私の後ろまでやってきて、そっと手を握った。冷たい手だ。びっくりして手を払い、そのまま引っ込めた。


「私、子どもなんていないわ」


 考えるまでもなく、答える。この少女は何を言ってるのであろうか。


「ママ、怖がらないで。いつものことよ」


 少女は無理やり微笑み、奥へと進み冷蔵庫から水を取り出した。慣れきっている手つきでコップに水を注ぎ、私の前に静かに置く。

「さぁ、ママの好きなレモンウォーターよ。飲んだら落ち着くわ」

 言われた通りに一口飲む。いつもの、私の好きなレモンウォーターだ。喉の渇きが癒え、少し落ち着いてきた。
 少女を見ると、優しい表情でこちらを見ている。

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