ささやかな奇跡
「高耶は捨て子だ。貴族の屋敷の前に置き去りにされていたということだ」

屋敷の前に佇んでいた子供は、今の慈尊と同じように、髪をみずらに結い、純白の狩衣を着ていたという。
子供は記憶をなくしていて、自分のことを何一つ語ることができなかった。

跡継ぎのない貴族の夫婦は、記憶をなくした美しい子供を、神がつかわしたものだと喜んで、わが子として育てることにした。

しばらくは何事もなく月日が流れたが、どうしたことか、青年期を境に高耶は年をとらなくなった。
いや、年はとっているのだろうが、容貌が少しも変わらないのだ。

その後、起こったことを、高耶は決して口にしようとしない。

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