僕等が保つべき体温の最大
クーラーが効き過ぎる店内。圭一は紗梨奈と向かい合って座っていた。

「ビックリしちゃった…」

誘ってもどうせ断られると思ったらしい。

だったら何故誘うのか?と思ったが、圭一にしてみればこの誘いはありがたかった。

部屋にいたくない。できれば何も考えたくない。圭一の思いは正直そんなところだ。

今の圭一にとって紗梨奈の存在は、さしずめ”丁度よかった”のだ。

「でも、嬉しかった!」

脈絡はよく解らないが、紗梨奈は満面の笑顔でそう言うと、ペラペラとしゃべり始めた。

よく動くその薄いくちびるをボンヤリ眺めながら、圭一は繰り返される質問に、ひとつひとつ丁寧に答える。

紗梨奈は、笑うときは大きく口を開けて笑うが、人の話しを聞く時は上目使いでジッと圭一を見る。

時々、視線を他にずらしては、髪をかきあげたり、襟元を直したりする。

その全てが圭一には計算がかって見えたが、それはそれで心地良かった。


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