群青ノ春
夏
日が西に大分傾いてきたとはいえ、九月の夕暮れはまだほとんど夏を残していた。
奈緒は買い物袋を両手に抱えたまま、どうにか首に張りつく髪の毛をはらおうとした。
「ねぇ、ちょっとー!明らかに陽登のが荷物軽くない?」
抱えたスーパーの袋を地面にどさりと置いて、
奈緒は前をスタスタ歩く陽登に文句を言った。
「あほか、お前な。トイレットペーパーはなかなか持ちにくいんだぞ!」
ようやく振り返った陽登は、何ともズルい言い訳をもっともらしい口調で、ニヤリと左の口の端を上げながら言った。
―あ、この顔…―
奈緒は不意打ちの笑顔に胸がキュっと締め付けられた。
ふにゃりとなってその場に溶けかけていたが、
すぐさまバレないように再び荷物を抱えて陽登に駆け寄った。