ちぇんじ☆
「――おはよ」

 私と隼人くんを交互に見ながら朝の挨拶を短く交わしてくる。
 その口調は不機嫌や無愛想といった類のものではなく――全体の雰囲気から緊張が見てとれた。
 昨日と同じく、一応化粧などは施してきているが言動に余裕が見られない。
 先ほどから私は勿論のこと、隼人くんにも愛想の一つも振りまけないでいる。

――やっぱり……緊張するよね。

 気持ちは良く分かるのだが、その緊張を解きほぐしてあげる術を私は持っていない。
 真里の緊張がこちらにまで伝染したような固い口調で「おはよう」と返すのが精一杯になってしまっていた。

「――じゃ、行こうか」

 世間話や軽い会話など望むべくも無いままに出発を促してしまう。
 真里もそんな私の対応に反論できないほどに余裕が無い。
 コクンと小さく頷いただけだった。

 あらかじめ買っておいた切符を真里に手渡す。
 そのまま二人で改札を抜けてホームへと向かう。

――目的地はいつぞやの『ラブホテル』。

 あの時は『誰が自分とエッチなことをするもんか!』なんて思ってたんだけど。
 まさか……本当にこんな事になるとは……人生って何が起こるか分からないものだ。
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