ちぇんじ☆
 その建物は本当に『これが山小屋です!』っていう見本のような山小屋。

 木造で、中には囲炉裏でもあるのかな?煙突があって、小屋の横には小さな川なんかが流れてて水車が取り付けてある。
 当然ながら周囲の電線らしきものは影も形も見えず、電気が通っていないことは容易に想像がつく。

 敢えてこの山小屋にキャッチフレーズを付けるのであれば、
 『山奥で修行する人が住むにはピッタリの好物件です』
 といった感じだろう。
 人生をリタイアした後に、余生をのんびりと過ごすのであれば、こんな場所に住んでみたいかも知れない。

 山の中の風景に物凄くピッタリとはまり込む山小屋に、なぜだか既視感にも似た感覚に襲われ、思わず見とれてしまう。
 ノスタルジックにも似た感覚に、しばし私は行動の自由を奪われた。

「どうしたの? ──さ、入るわよ」

 隼人くんのお母さんに声をかけられて我に返る。
 お母さんはすでに私の数メートル先、木と紙で造られた入り口から建物の中に入ろうとしていた。

 こんな場所で、いきなり置いてけぼりを食らったらどうしようもない。
 一人で山小屋の中に入っていける度胸もあるわけもなく、ポツンと屋外に取り残されてしまう。
 そうなっては堪らない、と慌ててお母さんの後を追いかける。

「ちわー! いるー!?」

 私がお母さんに追いつくとほぼ同時に、入り口から中に向けて誰かに向けて呼びかける。
 この気軽な呼びかけから察するに、この山小屋はお母さんの知り合いの家らしい。

 しかし……『いる?』って。
 ここまで訪ねて来て、誰もいなかったらかなりの『骨折り損のくたびれ儲け』のような気分になること請け合いなのですが……。

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