わたしの、センセ

悠真side

引っ越し先のアパートで荷解きしていた僕の手が、メールの着信音で真っ赤な携帯に伸びた

聞きなれた着信音

誰だかすぐにわかる特別な音

僕の大切な女性であり、大事な生徒である

「さよなら…か」

さくらからのメールを読み終わると、僕は携帯を閉じた

携帯だけはおそろいがいいってさくらが言ってたよね

一緒に買いに行ったわけじゃないけど、同じ機種の携帯にしたね

僕は、さくらの笑顔ですごく好きだったよ

さくらが笑うたびに、僕の心が幸せでいっぱいになるんだ

さくらの泣き顔も好きだったけどね

さくらを泣き虫にしてしまったのは、きっと僕…なんだろうね

泣かせたくて、泣かせたわけじゃないけど、ごめんな

僕には力がないから

社会に出て、たった数年の僕にさくらを守る力なんてなくて、こんな結果になってしまったけど

僕にはもう答えが出てるんだ

「さよならになんかしないよ、さくら」

僕は立ち上がると、ジャケットを羽織る

段ボールの上に置いてある黒いヘルメットをかぶると、さくら色のヘルメットを小脇に抱えた

「なんのために、無職になったと思ってるんだよ」

さくら色のヘルメットに向かって僕は呟くと、キーケースを手の中に入れて、靴に足を突っ込んだ

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