わたしの、センセ
第六章 初めてのデート
-悠真side-

僕はスーツにリュックを背負うと、革靴に足を突っ込んだ

「行ってらっしゃい」

真央が、寂しそうな声で玄関で僕を見送る

僕は振り返ると、真央に微笑んだ

「戸締りはきちんとしておけよ。僕は、明日の夕方まで帰らないから」

「…わかってる」

真央が、ぎこちない笑みを見せる

身体全体から、『寂しい。独りにしないで』と訴えているのがわかる

わかっているけど、僕は敢えて知らないふりをした

「飲み会、楽しんできてね」

真央が僕のスーツの袖をそっと抓んでくる

僕は、さり気無く腕をあげて、前髪を掻きあげて、真央の手を振り払う

真央には、大学のメンバーと朝まで飲み会をしてくると言ってある

本当は、さくらと朝まで一緒に過ごすけど

初めて、学校以外でさくらと二人きりになる

昨晩は、ドキドキして眠れなかった

まるで遠足の前日で興奮した子供みたいに、僕ははしゃいでいた

こんな気持ちは初めてだ

いや…真央と付き合い初めた頃にも、そういう感情はあったのかもしれない

何年も前のことすぎて、もう覚えていないだけ…なのかな?

「何かあったら、電話でもメールでもしていいから」

「ん。ありがと」

真央が、後ろで手を組むと、笑みを作って浮かべた

見るからに作り笑顔だ

笑顔の裏で、真央が泣いている

きっと…バレてるんだろうなあ、真央には

僕が、今夜帰らないのは、女と過ごすってことぐらい

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