それでも君と、はじめての恋を
「あ、噂をすれば」
葵の声とその視線の先に目を向けると、言葉通りモモが森くんとロビーに現れたところだった。
5メートルほど離れてはいたけど、モモと森くんが気付いてあたしは慌てて手を振る。
うわあ何か恥ずかしい……!
モモは軽く手を上げて、その場からあまり離れていない場所に設置された自販機の前へ歩み寄った。
「ていうか浴衣着てるけど何で……!?」
ボソボソと葵に訴えると、「さあ」と不思議そうな返事が返って来る。
あたしと葵の部屋は4人部屋だけど無理やり6人詰め込まれて、どのクラスもそうだと聞いた。
浴衣もあったけど当たり前に4着しかなかったし、多分寝具を持ってこいと言われてたのはそのせいだと思うのに……。
自販機で飲み物を買うモモの後ろ姿は、初めて見る感じだった。白に藍色で模様が描かれている浴衣の上に紺色の羽織りという、いかにも旅館らしいものだけどカッコイイ。
これは夏祭りも期待できる……!
「こっち来た」
「……っ」
森くんとモモがこちらにやって来て、あたしの胸はドキドキとうるさい。
モモの髪、ワックスが取れてぺたんとしてる。鎖骨なんて学校でいつも見てるのに、浴衣だと何か違う。
「ふたりも休憩中?」
あまりにもうるさい鼓動にモモを見ないようにしていると、森くんの声が頭上から聞こえた。
「そー。てか、何でふたりとも浴衣なの」
「あぁコレ? 池田がどうせだから着ようって、ほぼ無理やり」
葵の問いにハハッと笑う森くん。そういうことかと思った刹那、あたしの座る4人掛けソファーが僅かに沈む。
「……」
誰が隣に座ったかなんて分かっていたのに、視線を上げた先にコーラを飲むモモがいて、キュッと胸が締め付けられた。
何でもないように、普通のことのようにあたしの隣へ腰掛けたモモに、嬉しくなったから。
「……?」
「んーん。何でもない」
見られてることに気付いたモモは不思議そうにして、あたしは緩く首を振った。
いつもと違う格好のモモ。
お風呂上がりのモモ。
新しい姿を見ると、ドキドキするなぁ……。