それでも君と、はじめての恋を
「ダサすぎる……」
手の甲で隠された唇から発せられた言葉も、その姿も、モモの心境そのままかもしれない。
――真っ赤。
久しぶりに見た。モモの顔、どこを見ても熱を帯びてるのが分かる。
両手で首裏を押さえて俯いてしまったモモは大きな溜め息まで吐いたけれど、それはまるで緊張を一気に吐き出したようで。何より赤くなるモモに、あたしも徐々に頬を染めてしまった。
ダサすぎる……とか、まだ思ってるのかな。失敗した、とか。バカだ、とか。男の子も思うのかな。
そう考えると怒ることも責める気もないことに気付く。
ただその不完全な姿に愛しささえ覚えて、わずかに残る緊張と恥ずかしさでどうにかなってしまいそうなのに、モモに手を伸ばす自分がいた。
くいっと袖を引っ張るとモモはチラリと視線をよこしたけれど、今度はあたしが目を逸らしてしまう。
――心臓、が……。
それでも掴んだ袖から手を離すことはなくて、ゆっくりと引き寄せた。
唇を結んだのは、目を伏せるあたしの視界にモモの手が移ったから。
袖から、その手へ。
いつも冷たいモモの手は、今に限って少し湿り気を帯びて温かくなっていた。
4本の指を握り締めれば心臓はドキドキと速さを増して、苦しさに息もままならなくて。
緊張を紛らわせたいのか伝わってほしいのか、多分どちらの気持ちもあって、更に強くモモの指を握り締めた。
――同じかな。
どうしようもなくドキドキしてる今のあたしと、さっきのモモは。
触れる前の躊躇いにも似た緊張も、目が合った時に心臓が押し潰されるような苦しさも、いつまでも引かない体の内にこもるような熱も。
モモは、感じていたかな。あたしだけかな?
ダサすぎる、ってモモは言ったけど……あたしだってこんな自分はかっこわるいと思う。
それでも不慣れな経験を積み重ねたいと思うよ。
好きな相手が、モモだから。
「……」
シンと静まり返った部屋の中で変わらず時を刻んでいた秒針が、一瞬だけ止まった気がした。
モモがあたしの手を握り返してくれた、それだけのことで。