それでも君と、はじめての恋を


「……あたしも、渉と同じように思うよ。やり直したいって思ってるわけじゃないけど、ひとつも後悔してないわけじゃないから」


葵は地面に視線を落とすと一度だけ深く深呼吸をして、再びあたしと目を合わせる。


「不満があっても言わなかったり、大人ぶってる部分もあってさ。あたしにも悪いとこがあったなって。もう全部今更だけど、気付かないよりはマシ。自分のダメなとこなんて本当は極力見たくないけど、気付けて良かったって思う」

「……葵は割といつもかっこいいよ?」

「何それ」


クスクスと笑う葵に、明日も明後日も笑っていてほしい。泣いた分以上に、笑っていてほしい。


「ああ、うん、でも……あたしも渉かっこいいなって思う時はあるよ」

「……嘘だあ……」

「ほんと。たまにだけどね」


意地悪く口の端を上げる葵を疑いの眼差しで見つめると、急に穏やかな笑みを向けられた。


「ありがとう、渉。怒ってくれて、いつでも話を聞いてくれて……あたしにいっぱい、悩ませる時間をくれて」

「――……」

「もう平気。ちょっと嘘だけど、平気。そういうことにしといて」

「……葵が強がりなのは知ってるから大丈夫」


わざと皮肉めいた言葉を言ったのは、滲んだ涙を誤魔化すため。


そんなあたしに気付いてるくせにただ笑顔を向けてくる葵のそれは、いつも通りだった。


……ありがとうって、言われた。


視線を落として無意味に髪を触っていると、葵が「はー!」と大きく息を吐く。見ると、やっぱりいつもの葵がいた。


「とりあえず暫くフリー楽しむよ、あたしは」

「……それ、おにぃも言ってた」

「え、別れたんだ? まあ、引き摺っててもしょうがないからね」

「二股するダメ男だしね」

「そうそう。もう考えるだけ時間の無駄? さっさと忘れて次に行く準備しますよ」


強がり半分、本音半分、かな?


でもハキハキ喋る葵を見てると、自然と頬が緩む。



「――ってことだから、こっちくれば?」


――え?
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