それでも君と、はじめての恋を


七尋くんと付き合った1年と数ヵ月。


葵にとって1番身近で新しい記憶は、過去と言うにはまだ早すぎる。


ずっと一緒にいるのって、難しいんだね。そんなことさえ、知っているようで知らなかった。


恋に憧れていたあたしは浮かれてばかりで、ただ一度の喧嘩でモモなんか嫌いだと思って……。


喧嘩なんかしないと思っていた。何の隔たりもなしに仲良くしていられると思っていた。


嫌いなんて口にすることもなくて、好きって言うことしかないと思っていた。


年月と想いは比例するのかと思ってたけど、反比例するほうが普通なのかもしれない。


付き合いが長い分だけ不安や不満が増えて、喧嘩も泣くことも増えて、別れを口にしてしまう時があるのかもしれない。


怖い、って思う。幸せなだけじゃないって、怖い。

経験って完璧じゃないんだ、って思う。経験があるから臆病になるし、経験がなければ大胆にもなれない。


いつだって迷って、考えなきゃいけないのかな。そしたら、どうすればいいのかな?


「――ねえ、葵」


モモと喧嘩してるあたしも、七尋くんと別れた葵も、どうすることが1番いいんだろう。


「ずっと好きでいられるって、ずっと好きでいてもらえるって、奇跡だよね」

「……」

「絶対なんて言えないし、簡単なことじゃないけど、自分に素直でいれば大丈夫だよ」


我が家が見えたことで、葵より数歩先を歩く。そのまま門扉の前で立ち止まって、くるりと踵を返したあたしは葵と向き合った。


駐車場や玄関の照明が、葵の泣き顔を照らす。


「葵の選択は間違ってないと思う。いつかやり直したいって思ったっていいんだよ。あ、それはあたし的に反対だけど……でも、葵がまた誰かを好きになったら、全力で応援する」

「……」

「だから、泣かないで、って違うよね……元気出して、もまだ無理だよね……えっと……あ、お茶してく?」


そう言った途端、葵は吹き出して眉を下げる。


「渉……慰めるの、下手すぎ」


目尻の涙を拭いながら、葵は可笑しそうに笑ってくれた。
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