それでも君と、はじめての恋を
「池田、止めてた」
やっと発したモモの言葉は、葵の眉をさらに寄せさせる。
「……は? 純?が、何? 何が?」
「……言うなって、言われてたけど」
「……」
複雑そうな表情を浮かべるモモは、どこかで見た記憶があった。
「池田が、絡まれて殴られたって日。……あれ、違う。ほんとは、知らないやつに殴られたんじゃない」
大きく目を見開いたあたしも、葵も、その日のことは覚えていた。
『何、ちょっと、喧嘩!? その顔殴られたんでしょ!』
『べ~つ~にぃ~』
……そうだ。そのあと、モモが絡まれたとか何とかって曖昧な情報を付け足して……あれ、嘘だったんだ。
「――七尋……?」
ぽつりと葵が零れるように呟いた人が、純を殴った。
「何で純と七尋が……そんな話聞いてない」
「……俺が知ったのは、その日だけど。池田はもっと前から知ってた」
純は七尋くんが女の人といるのを街で何度か見掛けてたこと。最初は、大学かバイトの友達だろうと思ってたこと。だけどいつも同じ女の人で、不審に思っていたことをモモは告げた。
「池田は学校の奴らと遊んでた時にまた見掛けて、すれ違ったって言ってた」
葵と同じ制服を知らないわけがないのに、もしかしたら葵の友達がいるかもしれないのに。七尋くんは気にする素振りも見せないで、葵じゃない女の子と手を繋いで笑ってた。
モモは言い辛そうに、だけどハッキリと純に起こった事実を葵に話した。
「……それで何で、純が七尋に殴られるの」
「……決まりだなって思ったことを見たから、話し掛けたって」
「ああ……道端でキスでもしてたか、ホテル街にいたとか?」
モモが口をつぐむと、葵は苦笑する。
「純、何て話し掛けたの? ここまで話したんだから、言えるでしょ?」
「……池田に聞いて。俺が喋ったって言っていいから」
葵は暫くモモは見つめたあと、諦めたように肩を竦めた。
「分かった、そうする。純に怒られても、あたしを恨まないでよね」
「恨まないけど……ごめん。黙ってて、悪かった」
突然謝られた葵は目を見張ったけれど、すぐに微笑みを浮かべる。