それでも君と、はじめての恋を


「まだ状況把握してないから、その返事はまた明日ね」


葵はあたしにも笑顔を向けて持っていた携帯を軽く振ると、今度こそ本当に自宅へ帰っていった。


……連絡して、の合図。


偶然とはいえ、まさか純と七尋くんが会って、喧嘩までしてたなんて。


「……」

葵の姿がずいぶん小さくなった頃、あたしはやっと意を決してモモを見上げる。


「モモ。とりあえず家に入って」


それからちゃんと、話そう。






「適当に座って」


モモを家に連れて、家族の誰とも逢わせることなく2階の私室に招き入れた。するとモモは言葉を聴き入れず、何でかあたしに向き合う。

パタンと後ろ手で閉めたドアに、思わず寄りかかかってしまった。


……何か、久々にちゃんとモモと顔を合わせた気がする、って、そりゃ喧嘩してたから当たり前なんだけど。そうじゃなくて、モモってこんな顔してたっけ……?


「――今日、ごめん」

「……」

「……言い過ぎた」


申し訳なさそうにするモモの表情に、ああそうかって、気付く。


最近、不機嫌なモモしか見てなかったからだ。言い争ってからずっと、思い浮かぶモモの顔さえ全部影が掛かってるみたいに怖くて、嫌な気持ちになってた。


あたしも怒ってたから、そういう風にしか見えてなかったんだろうな……。


冷静になれば、そんなことないのに。真っ直ぐあたしを見て、謝ってくれてる。目を合わせ続けるの、苦手なくせに。


「……」

「……怒ってる?」

「え? あ、や、全然……っていうか、あたしもゴメン! えっと……とりあえず座って話そう! そこ!」


手を左右に振ったり、キョロキョロと辺りを見回したり、モモが座る位置を指差したりと忙しいあたしは、仲直りが下手くそなのかもしれない。


まさか真っ先に謝られるなんて思ってなくて、頭の中で組み立てていた話題の順番が早くも崩れてしまった。


モモがテーブルとベッドの間に座ったのに続いて、あたしも少し離れて隣に座る。


無言。だけど、まだ向き合って顔を見ながら話すほうが上手くいかなさそうで、隣あってるほうが良かった。
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