それでも君と、はじめての恋を


モモと目が合った刹那、コンビニの明かりや外灯とは別の光がどこからから向けられる。


「そこの君たち!」

「――やばっ」


そう口から洩れたのは、懐中電灯を持った補導員が近付いてきたからだった。


「もう11時過ぎだぞ! どこの高校の生徒だ!?」


慌てて立ち上がりバッグを肩にかけたあたしと、ケーキの箱を持って立ち上がったモモが考えていることは見事に一致していた。


どちらからともなく手を繋いだあたしとモモは、補導員の質問に答えることなく駆け出す。


「こら! 待ちなさいっ!」


そんなことを言われても止まるはずもなく、葵と純は待ちくたびれているかもしれないなぁ……なんて、考えていた。





「やばいモモ! 次の電車最終だ!」


補導員を振り切り駅目前で走るのをやめた数分後、時刻表を見ていたあたしは驚愕の声を上げる。


「あと5分!」

「ギリギリ間に合……定期忘れた」

「あの駅切符買ってもホーム行くまで階段上って歩いてまた階段降りなきゃいけないんだよ!」


モモが今日初めて使った駅の構造を説明しながら携帯をバッグに戻す。


最終なら駅員さんは少し待ってくれると思うけど、これは定期券を持ってるあたしが先に行って、念のため電車を止められる準備をしていた方がいいかもしれない。


そう提案するとモモは了解してくれて、あたしは「じゃあ先行くね!」と繋いでいる手を離して駆け出した――はずだった。


「え!? ぎゃあ!」


離すはずだった手は大きく前に引っ張られ、あろうことかあたしよりも先にモモが走り出す。


「あぶ……っ危ない! 待って、何で!? モモッ!」


危うく転びそうになったあたしの叫びなんてお構いなしに、モモは手を繋いだまま走る。


自分の足の長さ考えて! あと、力の強さも! 肩脱臼するかと思ったの何回目だと思う!?


これじゃあ電車に間に合わないかもしれないのに……いや、ふたり一緒でも間に合う気がしてきたのが本音だけど。


よたよたと覚束ない走り方をするあたしに、モモは可笑しそうに笑みを向けてきた。それが何だかとても無邪気で、可愛くて。


繋がれた手が前に出る度に揺れる、ふたつのバングルさえ輝いて見えて。モモのバカ、なんて思いながら胸いっぱいに拡がる楽しさに身を委ねるしかなかった。



踊るように走って、笑いあって、ふたり手を繋いで同時に駅構内へ足を踏みいれた時。いつまでもこうしていたいと心の底から思った。


言葉がなくても、感じられたから。


昨日よりも、今日よりも。明日はもっと、楽しい時間がふたりに流れますように。


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