それでも君と、はじめての恋を


バシッ!とモモの腕を叩くと、理不尽な行動に案の定眉を寄せられる。


「……何」

「なんとなく」


何だその理由、とでも言いたげなモモから目を逸らして、教室の出入り口を塞ぐ森くんを押した。


「わ、」

「進んでっ」

「急に押さなくても……って、え? ちょ、俺どこまで押されんのっ」


森くんの背中をぐいぐい押すあたしは、結局教室の窓際まで森くんを歩かせる。


「……どーしたの」

「何でもないです……」


モモは久坂さんに対してこんな気持ちを抱いていたのかもしれない……。


窓と向き合うあたしの謎すぎる行動に、森くんは不思議そうに顔を覗いてきた。


「また桃井と喧嘩?は、してないか。普通に話してたもんなー」

「……森くんに質問」


窓に体の半分を預けると、森くんは紙パックのジュースを飲みながら「何?」と付き合ってくれる。


「モモの悪い噂って消えた?」

「んー。いやー、未だにちらほら聞くかな」

「だよね……」

「あ、でも。渉ちゃんと付き合ってから? このクラスも割と仲良いじゃん。そのせいか、桃井寶は実はそんなに怖くないって3年の間で話題らしいよー」


うわー……それだー……。


「モモが……さっき、綺麗な女の先輩と話してたんデスヨ……」

「ああ、だからふたりとも廊下に……ってか、もうそこまで来てるんだー」

「そこって何!?」


そんな、いかにも、モモを狙う女の子が増えたみたいな言い方はやめて!


「まー。やっと桃井の時代が来た、って感じはするよねー」

「来なくていいよ!」


ものすごく正直に言っちゃったけど、本当に来なくていい!


今更気付いたけど、モモの悪い噂があったからライバルの影なんてなかったんじゃない……!?


終わった……さっきの先輩なんてすごい綺麗な人だったし……比べられたら100%負ける……。


「最悪だ……モモの本性分かったら絶対みんなモモのこと大好きになる……」

「いやー。そこまで言い切るの、渉ちゃんだけだと思うけどねー」


森くんの言葉は一切耳に入らないまま、あたしはどんよりと暗い負のオーラを纏う。
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