それでも君と、はじめての恋を


……嘘じゃない、って。それじゃあ逆効果なのに。あたし、気遣ってなんかないよ?


言ったことは嘘じゃないから葵達に聞かれてもいい、なんて思ってるなら、あたし今より喜ぶよ?


モモの初恋はあたしで、初めての彼女もあたしで、モモが興味ある女の子はあたしだけで、他の子は嫌だって。


モモはそんなことを、みんなに堂々と言ったようなものなんだから。


「もっと言って」

「……」

「さっき話してたこと、もっと誰かに言って」

「……何がそんなに嬉しいの」


だってモモは、あたしみたいに好きなんて言わないじゃん。こんなことがあったんだ、なんて誰かに惚気たりしないでしょ?


人前でベタベタに甘えてきたりもしなければ、ふたりきりでも抱き締める手つきさえぎこちないんだから、嬉しいに決まってる。



「あたしも同じだから、嬉しい」


モモだけ見てる。モモしか見えてない。そんな風に思うくらい、モモが好きだよ。いつもは胸の奥に隠れてるけど、モモじゃなきゃ嫌だって気持ちもあるんだ。


もう何回も思ってるけど、そこまで想える相手と出逢えたことは、両思いになれたことは、すごいことだよね。


「へへ。幸せ」

「……良かったね」

「たまには“俺も”って言ってよ!」


ニヤけたり怒ったりするあたしにモモは口を噤んで、微笑む。


……ほんと、ずるい。あたしばっかり好きって言って、幸せオーラ出して。


だけどモモが微笑むと、まあいいかって思う。言葉がなくても、同じ気持ちなのかなって思う。


それでも出来れば言ってほしいって思ってるけど、今はいいや。



「おー。いたいた」

「「……」」


モモと同時に振り返ると、安部ちゃんがニヤリと不気味な笑顔を浮かべて立っていた。


「お前ら部活入ってなかったよな? 雑用頼む」


嫌な予感、さっそく的中。
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