グレスト王国物語
驚いてそちらを見やると、仰向けに倒れて悶絶する男を、軍服に身を包んだ女が踏みつけていた。

店内の空気が凍る。

私は何が何だか分からない。

どこか痛むのだろうか、男はまた叫び声を上げた。

「おい、男。今何と言った。」

軍服の女が口を開いた。

どうやらこの中年男、何か言ってはいけないことを口走ってしまったらしい。

「この私の前でバルベール様の侮辱とは、いい度胸だな。」

「…黙れ。」

「何?」

「黙れ!お前らのせいだ!どうして冬が5年も終わらないんだ!あの人殺し王子のせいだろう!!イカれたバルベールの!!」

男は息も絶え絶えに叫んだ。

悲痛な声だった。

「あの人殺し野郎「春の女神」も殺しちまったんじゃねぇのか?!」

女は一瞬悲しげな目をして、すぐに眉を不機嫌に歪めた。

「…言いたいことはそれだけか。」

「まだあるぜ。」

男は、言った。

「この王子の雌犬が!!!」

叫ぶなり、男は思い切り鳩尾を蹴られ、意識を失った。

静寂が訪れ、店内が不気味な余韻に包まれた。

女は、男に鉄の手錠をはめた。

反論する者は、誰もいない。
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