グレスト王国物語
「…すまん。湿っぽくなったな。
さぁ、頼むから嫌がらずに早く出発の準備をしてくれ。」
澄んだ瞳と、この時初めて視線を合わせた気がする。
彼女は眩しそうに目を細めると、そっと胸元からペンダントのようにして下げていた女神の涙を取り出した。
「…もうたくさんなどと言いながら、結局、私も託してしまうんだよな。」
すまない。
ぽそりと謝罪すると、イヴァは今まで私にしてきたぶしつけな振る舞いなど、まるで嘘のように優しく女神の涙を私の首にかけた。
「届けてくれ。大女神グレスティアに。
そして問うてくれ。人間をいかようにしたらば良いのか。
白なのか黒なのか、私にはもう見当がつかん。」
静かに、力強く。
彼女はそれこそ託すようにそう言うと、ドアの側にかけてあった喪服のように黒い軍服を羽織り、風のように出て行った。
残された私は、静寂に立ち尽くす。
かつて、彼女に委ねられた願い。
たった今、自分に引き渡された想い。
私たちは、どんな夢を見ていて、その結末は、果たしてどこへ向かうのだろう。
私は、少しばかり重みを増した首もとを見下ろす。
やわらかな闇に包まれかけた夕焼けを写し取ったように静かな紫色が、ほんのりと寂しく輝いていた。
さぁ、頼むから嫌がらずに早く出発の準備をしてくれ。」
澄んだ瞳と、この時初めて視線を合わせた気がする。
彼女は眩しそうに目を細めると、そっと胸元からペンダントのようにして下げていた女神の涙を取り出した。
「…もうたくさんなどと言いながら、結局、私も託してしまうんだよな。」
すまない。
ぽそりと謝罪すると、イヴァは今まで私にしてきたぶしつけな振る舞いなど、まるで嘘のように優しく女神の涙を私の首にかけた。
「届けてくれ。大女神グレスティアに。
そして問うてくれ。人間をいかようにしたらば良いのか。
白なのか黒なのか、私にはもう見当がつかん。」
静かに、力強く。
彼女はそれこそ託すようにそう言うと、ドアの側にかけてあった喪服のように黒い軍服を羽織り、風のように出て行った。
残された私は、静寂に立ち尽くす。
かつて、彼女に委ねられた願い。
たった今、自分に引き渡された想い。
私たちは、どんな夢を見ていて、その結末は、果たしてどこへ向かうのだろう。
私は、少しばかり重みを増した首もとを見下ろす。
やわらかな闇に包まれかけた夕焼けを写し取ったように静かな紫色が、ほんのりと寂しく輝いていた。