笑うピエロ店員。
ぼくは変なお兄ちゃんと別れた後、
誰かが再生ボタンを押したように動き出した時と一緒に街中を通っていた。

ぼくより少し小さいくらいの女の子が、おとうさんとおかあさんの間で手を繋いでいる。

女の子が何かを話すと、おとうさんもおかあさんも笑みがこぼれた。

心の中がほんのりオレンジ色になるような、誰かのありがとうの言葉のような、そんな雰囲気だった。

ぼくは、その家族とは反対の気持ちで目を逸らした。
おかあさんを想っていた。

ふと逸らした目に、素朴なケーキ屋が入った。

ケーキ……。
そういえば、今日おかあさんの誕生日だ。

十月三十日。

おかあさんにケーキを食べさせてあげたい。

いつかの幸せな誕生日のような、三人でも一日で食べきれないような大きなケーキ。

だけど、ケーキ屋に入ってはみたものの、小学生のぼくにはそんな立派なケーキなんて買うお金なんてない。

ふわふわで、顔をうずめたくなるようなスポンジ。
それを隠すように、まとわれた白いクリーム。
つやつやしていて、甘そうで、噛めばシャキッと歯切れのいい音が聞こえてきそうな、カラフルなフルーツ。
甘い香りがお腹を鳴らす。

ケーキを一通り眺めた後、ぼくはさっきの道を戻った。

「お兄ちゃん。ぼくの明日、買って」

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