笑うピエロ店員。
興奮した声だ。目がらんらんと光り、期待したように口角が上がっていた。

ぼくは、お兄ちゃんがぼくをからかっているのだと思った。
アスをウルって何?


「う、売らないよっ」
お母さんに、知らない人の言う事はぜっ、た、い、に、聞いちゃ駄目だって、言われてる。

言いながら、お兄ちゃんを手で振り払おうとした。すると、お兄さんは攻撃をかわすように曲げた腰を起こす。

「ふぅーん」
つまらなさそうな声だった。
両手を後頭部で組み、回転椅子のように後へ向き直る。

「あーあ。残念だなぁ。じゃあ、気が変ったら……よっと。またここに来てよ」
全然残念そうじゃないお兄さんは、平均台渡るように歩いていき、ぽすんとお店の壁に体重を預けると、不意にこちらを向いて「待ってるからさ」と言った。

さっきまでの興奮はどうしたのか。
まるで、数分後にぼくが心変わりするのが手に取るように分かるかのような落ち着きぶりだった。
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