ミッドナイト・スクール

「……待って……」
小さく消え入りそうだが、それでもはっきりと誰かの声を聞き、二人は振り返った。
「だっ、誰だ！」
……振り向きざまに怒鳴り、和哉は教室の内部を見渡すが、死体が二つある他は何も生き物の気配はない。
「……空耳か？」
再び教室を出ようとするこ人に、後ろからまたも声がかかる。
「待っ……て、行かな……いで」
娠り向いた二人は、とんでもないものを見た。
なんと、下半身を切り離された男が、上半身だけでこちらへと這って来ている。
「きゃあああ！」
ユリの悲鳴が教室中に響く。
「なっ何だ、こいつは！」
和哉にも、これが現実の事とは思えなかった。
「助……けて、殺さ……れる」
死体は腕を必死に延ばし、少しずつ和哉たちの方へと這って来る。
「いやあああ！」
ユリは和哉にしがみつき、悲鳴を上げ続ける。
「うわっ、く、来るな、来るな」
手で追い払う様な仕草をしながら、和哉は後ろへと下がる。
和哉を見上げる男の顔が、苦痛に歪んだかと思った瞬間。
ブシュウウ！
「ぐあああああああ！」
切断面から大量の血が吹き出し、今度こそ男は絶命した。
あまりの常識を超えた出来事に、和哉はしばらく動けなかった。
腰が抜けたユリは、ペタンと尻餅をついている。
「……冗談じゃないぜ」
余りに鋭く切断された為に意識が残っていたのか、男の生きようとする強い意志によるものか、それとも、何か不思議なカによって生き返ったのか……全ては謎だ。
「戻ろう」
座り込むユリを起こすと、和哉は足早に１年Ａ組の教室を去った。

《この場所は危険だ。一刻も早く離れなければ》

和哉の心の中の本能が、警戒信号を発している。
とにかく逃げる、逃げるしかない。