ミッドナイト・スクール
《だめだ、そんな事できないよ。人を……それも自分の兄を殺すなんて》
必死にテレパシーを拒否する文彦だったが、頭に流れて来る快楽の波は、いつまでも消える事なく、逆に殺戮の衝動と共に強くなる一方だった。
種田は消毒液を持って来て、文彦の足の治療を始めた。
再びテレパシーが聞こえ、その言葉に屈しそうになる文彦は棚にあった裁ち鋏をゆっくり手に取ると、刃を上に向け、兄の頭上で大きく振りかぶる。
《やめてくれ、人殺しなんてしたくない》
懸命に自分の中の理性と戦う文彦だったが、一方では、兄を殺せば新たな快感を得られるのではないか、という感情にも押されていた。
《殺セ、殺セ、殺セ、コロセ、コロセ》
更に大きくなるテレパシー。
《コロセコロセコロセコロセコロセ……》
《……ああ、兄さん逃げて! このままじゃ僕は兄さんを……》
文彦は必死に歯を食い縛り、手を振り下ろそうとする力と戦った。
振り下ろそうとする力と、兄を助けたいと願う弟の力……種田が手当を終え、顔を上げたその時だった。
ブンッ!
グチュ!
「ぐあああああ!」
種田は何が起こったのか理解出来なかった。
突然、目の前に何かが振り下ろされたと思った時には、顔面に激痛が走っていた。
 文彦の鋏は、種田の右目を串刺しにした。
「ふ、文彦……」
そして足元から崩れ落ちる。
一方、文彦は欽を持ったまま荒い息をして、目の前の光景に恍惚としていた。
「あああああ!」
とめどなく溢れ出る赤黒い液体。大量の血液が種田の左目から失われていく。
「あはは、あははは、あははははは!」
その後の文彦は、自分の行動を止める事は出来なかった。うずくまる兄の脳天に二度、三度と欽を突き立てた。
「あはははは。あはははは!」
既に絶命した兄の脳天に、何度も何度も欽を突き立てる。
ザクッ、ザクッ! ゴシャツ。
《ソウダソレデイイ……。ソレガオ前ノ願望ダッタノダ》
再び文彦の頭にテレパシーが届く。
《これが……僕の願望》
カシャンシャン。
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